Opinion  


『Part 1  情報リテラシー(その1)追記』

−経済的格差による教育の崩壊−


27, September 2010

大秦安敦(おおはた やすのぶ)

中央省庁にて情報通信政策を担当し, 現在ICTアーキテクターとして, 電子行政におけるガバナンス及び基盤構築, 情報リテラシー分野等に関する専門研究, レビューアー&コメンテーター等を務める

OECDはEducation at a Glance 2010[1]2010年9月7日に発表した。これを受けて文部科学省が同日報道発表した資料[『図表でみる教育OECDインディケータ(2010年版)』(Education at a Glance)の概要][2]には、以下の記述がある。

日本の教育機関に対する公財政支出の対GDP比は前年と変わらず、3.3%。その順位は、OECD加盟国(28か国)中最下位。

過去の時代において、我が国は均質で高レベルな教育水準を実現していたのであるが、構造改革に伴い顕在化してきた[教育後進国]とでも言うべき公財政教育支出の貧弱さが子供の学力にどのような否定的影響を及ぼしているか検討する

まず、東京都が2004年に実施した[平成16年度[児童・生徒の学力向上を図るための調査 【小学校第5学年】算数]の算数全体平均と[東京都税務統計年報 平成17年度版 Z都民の租税負担 3都民の個人住民税1人当り税額及び1世帯当り税額 1世帯当り税額総額]の1世帯当り税額総額の相関を23区に関してグラフ化してみた。

グラフ1-1 小学校児童の学力と1世帯当り税額総額との相関



相関係数 0.639454

なお、2004年のデータを用いたのは、2005年以降の[児童・生徒の学力向上を図るための調査]で得られているはずの市区町村別のデータが見当たらないためである。また、課税対象所得ではなく税額を用いたのも東京都が市区町村ごとの世帯当り課税対象所得を公表していないことによる。

グラフ1-1における特異なデータ(の部分)は千代田区、港区及び渋谷区であるが、この異常値を除外するとグラフ1-2のようになる。

グラフ1-2 小学校児童の学力と1世帯当り税額総額との相関(異常値除去)

相関係数 0.752668

以前より所得水準と子供の学力には相関関係があると言われてきた[3]が、諸経費控除後の課税所得に対応する世帯当りの納税額と子供の学力には相関関係があると言わざるを得ない。最も懸念されることは、経済的格差により学力差が生じていることにより、所得の多い家庭の子供は多くの場合将来的にも安定した一定以上の収入が保障されるであろうが、所得の低い家庭の子供は更に貧困化する負の再生産に陥る危険が既に生じていることである。このような危機を克服するためには、適切な経済政策・雇用政策を実施して雇用を安定させ親の所得を保障することと併せ、公財政教育支出を拡大することが必要不可欠な政策となる。

ところが、一連の公財政教育支出うち、就学援助給付は構造改革に乗じた三位一体の改革により準要保護者に対する国庫補助金を廃止(2005年度)し一般財源化している。もともと準要保護者自体が全国共通の認定基準がなかったことも原因となり、この国庫補助金の廃止と市町村の一般財源化を節目に多くの市町村で就学援助給付を縮小する傾向が生じている。2005年度以降も経済状況は好転せず、特に2008年9月のリーマン・ショック以降一層の厳しさを増した経済状況の下で、就学援助の給付対象である要保護者・準要保護者共に増加しているにも関わらず、である。

また、教育や社会福祉に関する国庫補助金の廃止とその市町村の一般財源化は地方分権というもっともらしい美辞麗句を纏ったナショナルミニマムの否定でもある。

特に教育に関しては、教育基本法第4条第1項で[すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない]と教育の機会均等を保障し、同条第3項で[国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない]と国と地方自治体の責務を規定している。したがって、三位一体の改革による準要保護者に対する国庫補助金の廃止とその市町村の一般財源化は教育基本法の規程はもとより、その淵源である日本国憲法の精神すら蹂躙するものであり看過することはできない。

まして、教育は多くの子供が確固たる情報リテラシーを会得することで、我が国の経済社会を不断に発展させ今後本格化する少子高齢化社会を乗り切るためにも必要不可欠の投資であり、決して少数の[エリート]養成であってはならないのである。

江戸時代から明治時代に至る近代化は一握りの[エリート]により達成されたものでは決してなく、国民の多くが高い教育水準であったが故に近代化を受け入れることができる大きなキャパシティを有していたからに他ならない。我々はこうした過去の歴然たる教訓を見失ってはならないのである。エセ経済論やエセ財政論などに惑わされて、国家戦略を欠いた日和見をしてはならない。

[1] http://www.oecd.org/document/52/0,3343,en_2649_39263238_45897844_1_1_1_1,00.html

[2] http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/09/__icsFiles/afieldfile/2010/09/07/1297267_01_1.pdf

[3] 例えば、世帯年収や学校外教育支出と学力との相関に関しては、文部科学省による[お茶の水女子大学委託研究・補完調査について](耳塚寛明 2009年8月4日)がある。http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/045/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2009/08/06/1282852_2.pdfまた、松本大輔衆議院議員のウェブサイトには、東京23区における就学援助給付率と学力の相関を示す資料がある。http://www.dakara-daisuke.com/pdf/060206kakusa.pdf



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