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中島章夫氏(1997年第2次橋本内閣において環境政務次官)は、早くから“炭素税”導入について言及をし、いわゆる現在の“環境税”議論の口火を切ったキーマンである。昨秋の鳩山総理の2020年を目途にしたCO2排出量25%削減の国連宣言などを契機に、“環境税”は大きな政策課題に浮上した。民主党の鳩山グループのメンバーとも古くから知己があり、環境問題及び教育問題の専門家としても活躍する中島氏に“環境税”をとりまく構造的課題について振り返ってもらった。
世界構造の変化を見据え、日本の地球環境戦略のシナリオ構築を図れ!
インタビューアー 昨年9月に鳩山政権が誕生し、政府の地球環境問題に対する関心が強まっていますが、あなたは以前、本ウェブサイトでの取材において「環境税」について言及されました。最も早くから政府において「環境税」の口火を切った方ですが、10年以上を経て、再び「環境税」の話題が出ていますが、当時の政治状況と比較しつつ、お話をうかがいたいと思います。
中島 まず1997年12月に議決された「京都議定書」というのは非常に意義のある内容で、その延長線上で昨年9月「ニューヨークの国連気候変動サミット総会」で、鳩山総理が2020年までにCO2排出量25%削減という政策目標を打ち出したことは、日本にとって非常に良いことだったと思います。1997年に私が環境政務次官をしていた当時、「環境税」の導入について言及をしました。ところが当時の環境庁のなかには、環境庁生え抜きのスタッフ以外に、通産省からの出向者がおりました。通産省からの出向者は、どうしても産業界の意向を優先していて、環境税など導入したら日本の経済は減速してしまうということで反対をする傾向にありました。その構図は環境省になった今でも多少は残っていると思っています。しかし、あれから13年以上を経て、大きな変化があったことは、国民の間で、環境コンシャスといいますか、家庭でのゴミの仕分けの問題をはじめ、庶民の側がとてもセンシティブになってきたと明白に言えると思います。この鳩山総理の2020年までCO2排出量25%削減の政策目標については、日本をリードしてきた製造業、それに関連する中小企業の方々の間では賛成・反対の色分けがはっきりしています。とくに反対の意見がかなり出てくるかと思います。
−地球環境問題に対する米国・中国の動きが大きな要因になってきましたが。
中島 鳩山宣言の意義は、地球環境問題に対して日本がリーダーシップをとるきっかけを作ったという意味でよかったと思います。実は、この問題は世界で最も実力のある国がリーダーシップをとらなくてはならないと思っています。その意味ではもっと早い段階でアメリカ合衆国がその主導権をとるべきだったと思います。2002年の9月11日の出来事は、アメリカ合衆国にとっては非常に不幸な出来事でしたが、あの事件以後、J・W・ブッシュ大統領が勢いづきました。多民族国家である米国では、なかなかナショナリズムが起こりにくいのですが、あの事件以後、ある種のナショナリズムが起こった気がします。ナショナリズムの動きとの関係で軍需産業も増大しましたので、地球環境問題というよりは国防問題が優先されたと思います。しかもその間、何の拘束も受けなかった中国は情報化の流れを活用し急速な経済成長をし、世界最大の排出国になってしまいました。米国と中国という世界二大排出国が地球環境問題に消極的ということでは、地球環境問題の解決は非常に深刻になってきます。
−また今後の国民国家のあり方も大きく変化していくとの予測がありますが。
中島 三菱総合研究所が示した『2030年の日本』という本があります。これによれば2030年になると中国の人口増加は頭打ちになる。2060年になるとインドの人口の方が増えていく。2065年には世界の人口は90億弱で限界に達するというのがベースになっています。そのなかで私が注目したのが、これからの国際社会は経済を含めて“メガ国家群”が中心になっていくという予測です。日本のような国民国家は相対的な位置を低下させていくということは間違いないということです。世界の総生産量を見れば、米国が35%、EUが25%位、日本が13%位という形ですが、2030年には、米国が30%弱、EUは20%位、その次には中国が10%強となり、日本は中国に追い越され10%弱となり、それにロシア、インドが追随する形になるであろうと予測しています。いずれにせよ日本はどこかの国や地域と連携をすることによってその存在感を示す必要があるという流れです。とくにアジア地域との関係は重要になります。アジアというのは、アセアン等を含めると37億人の人口を有します。つまり世界の人口の半分以上がアジアということになります。
−地球環境問題に関しての日本の強みとは何でしょうか。
中島 日本が存在感をもつためには、日本がもっている技術や学術的なノウハウ、文化的な豊かさなどがありますが、私が最も強調したいのは、日本人が最も自然と環境にセンシティブな国民だと言うことです。日本列島には、春・夏・秋・冬という色彩豊かな四季の変化があって、島国ですので、海と山と川が、そして田園風景が存在します。欧米の国々では、人間が自然に挑戦して社会を形成してきたと言う伝統がありますが、わが国では、太陽と自然との調和の中に人間が生かされてきたと言う歴史をもっております。また、この国は東西の文化が行き交ってきた国でもあります。だからこの国が地球環境問題においてリーダーシップをとるというのは、ある意味では当然で、この豊かな経験を生かして、自然に対する畏敬の念という20世紀にはなかった自然との調和の考えを世界に伝えるという意味でも重要な意義があると思っています。さらに環境産業の技術的な変化は日進月歩ですから、海水から飲料水を創り出す技術なども近いうちに可能になるかもしれません。海洋資源の活用については、まだまだ未知の可能性が秘められているのではないでしょうか。太陽光をはじめとする自然エネルギーの活用面での技術開発、自然のなかで環境を大切にするということの情報発信、あるいは高い技術力とともに文化的な多様性を越えて相手に対して説得していくことができるのは日本しかないと思っています。
−あなたは政務次官の際に、地球環境問題に対して専門に研究する戦略研究機関の必要性を強調され「財団法人地球環境戦略研究機関(Institute
for Global Environmental Strategies)」が設立されましたが、当該研究所は、その後どのような活動をされていますか?
中島 湘南国際村に設立された「地球環境戦略研究機構」は地球環境問題解決に向けて、特にアジアの国々に対する情報発信基地として大きな意味をもっています。現在、理事長の浜中裕徳氏は当時、私が政務次官のときに地球環境部長をしていましたが、彼は当時から環境庁(当時)を背負って世界の環境機関・環境大臣等と積極的に交流をしていました。環境庁を辞めてからは慶応大学の環境情報学部の教授となり、国連大学の高等教育研究機関にもかかわっています。ここは言うまでもなく、アジアを中心とした環境の先進的な研究プロジェクトや技術プロジェクトを作って実践をしていく、そういうことのイニシアチブをもっていくということを主眼にしています。私は、この研究機関を大いにアピールすべきだと思っています。国際的な地球環境問題の課題検討もさることながら、「環境教育」に関してのプログラムなどにも注目しています。例えば、小・中・高等学校から大学に至るまで、初等・中等・高等教育を連携した「環境教育プログラム」というのを提案したいと考えています。
「環境教育」から捉えた教育行財政システムの課題と改革
−「環境教育」に関連して、日本では範となる環境教育プログラムをはじめ環境教育に関する教科書や副読本が非常に手薄に思えますが、それはどうしてなのでしょうか?
中島 2002年から−始まった教育課程で、週5日制になったカリキュラムですが、このときにいわゆる「総合的な学習の時間」というのが導入されました。時間数を絞って、土曜日を休みにしたのはこの時からです。このカリキュラムに関しては、文部科学省には、分析的な能力が全くなかったと思っています。小・中・高校に「総合的な学習の時間」を作りましたが、その内容とは「環境」「高齢化問題」「国際化問題」というようなテーマを与えて、各学校に投げただけでした。例えば、小学校で国際交流というテーマをとらえて、英語のネイティブスピーカーを招いて英会話学校のようなことを企画したりしていました。これは全く智慧のないことです。さらに問題なのは中・高校でこそ行わなくてはいけないのに、中・高校では全く低調であったことです。教科が連携して授業を行うということは殆どなかったと思います。
環境問題というのは教科を超えた問題です。環境問題ではっきりしているのは理科の側面です。生物面・気候面や地学面などが中心となりますが、サステナブル・ディベロップメント(持続可能的な開発)という課題を考えれば、これは優れて社会科の問題のはずです。小学校では1年生では学校と家族のこと、2年生では地域のお店やコミュニティのこと、3年生では市町村のこと、4年生では都道府県のこと、都道府県は世界につながっているので世界のことに気づかせること、といった内容が注意書きに書かれていました。5年生では産業のこと、6年生ではその3分の2がクロノジカルではない日本の歴史のこと、3分の1が公民という内容でした。やはり、小学生でも世界の天気予報を見ているわけですし、小学校5,6年生でも世界の地理などを学習して、世界に興味を増してきているわけですので、低学年から高学年にまで一貫して地球環境問題を学ぶ機会を創り出すことは必要不可欠だと思っています。
−文部科学省の「教育課程審議会」で議論して決まってくるのですよね。
中島 審議会がいわゆるサロン的な討議の場と化しているのは否めない事実です。審議会ですから様々な有識者を審議委員としてメンバーに入れています。その結果、専門的な事項については役人が提案した原案を基にして決まってしまうわけです。こういうことを繰り返していてはいけないというのが率直な気持ちです。理科の内容ですが、あるノーベル賞受賞者の方が、私の執務室に訪ねて来られましたが、そのとき、高等学校の理科の教科書を見ていただきましたが、その方はその内容たるや、あまりのナレッジの古さに、驚いておられたことを覚えています。理科も社会科も小学校から高等学校までを一貫して見直してみるべきだと思います。その際に環境問題は理科にも社会にも関連しますので、教科を超えてカリキュラムを作るべきだと思っています。何時まで経っても教育の目標や教科等の構造を考えずに、各教科ごとのパッチワーク的改定をしていたのでは、時代の進展に遅れるばかりです。
−東京大学の小宮山宏総長のもとで“俯瞰工学”という学問が産まれ、地球環境問題の解決に向けた工学的アプローチが大きな話題となっています。工学を社会・経済・文化・国際等の周辺部とあわせて、あらゆる学術的な領域のデータベースをネットワーク化させて総合的な視座からBird-View(俯瞰)し、工学的な最適化を追究していくという手法をとっています。高等教育のなかで日本の科学技術をどのようにして活用していくのか、あるいは強みを活かしていくのかについての研究を進めていますね。
中島 湘南国際村には、地球環境戦略研究機関のそばには総合研究大学院大学が隣接しています。せっかくそうした研究機関が近くにあるのですから、大いに連携すべきだと思っています。総合研究大学院大学には全国の17ほどの大学院や研究所が参画しておりますし、それらの研究所とデータベースのコンピュータが接続されていますので、積極的に活用すべきだと思います。
−いわゆる審議会での問題を指摘されましたが、民主党政権になって、このような仕組みに変化はありますか?
中島 本質的には変わることはないと思います。菅直人財務相も長妻昭厚労相もそうですが、問題に対して切り込む姿勢は優れていると思いますが、一方で何かを創造していこうというスタイルには相対的な弱さがあります。創造のためにチームワークを形成し連携していくということには、まだ十分ではないのではないかと見ています。
−カリキュラムの課題について、どのような解決策をおもちでしょうか?
中島 基本的に、現行の取り組みの下では役人に言っても、政治家に言っても変わらないと思います。教育の世界では、地味なようですが最も変わらなくてはいけないのは教育の中身と指導方法に関する取り組みです。カリキュラムに関するものの考え方やシステムが全部古くなっています。文部科学省にあるものも、また各学校で行われているのも率直に言って古くなって本質を見ていないと思います。その解決策として2つ提案したいと思います。
1つは地方分権です。小学校については、古来この国が積み上げてきた知識や経験の精選されたものを、次の世代の国民に託するという共通の願いの下に、ある程度全国画一的に示す必要がありますし、民主主義社会の基本となるすべての者に平等の機会を与えるという意味でも大切ですが、個性と多様性を強調しなければならない中等教育学校は、将来的には都道府県に任せるべきだと考えています。内容的なものについて、基本的なものについては国が2~3の見本を通達はするけれども、また必要な財政的あるいは技術的な支援はしますが、基本的には各県が互いに競い合うようにするのが狙いです。教育指導という側面からみると、中学校・高等学校の先生が改革のリーダーシップをとっていく仕組みに変えるべきだと思っています。そして各県に於いてはカリキュラム開発センターが中心となって、行政と学校現場とが、さらには各県にある大学とが連携をして、カリキュラムを改訂し、実践し、問題点を検証し、フィードバックをしていくというサイクルを築きあげるべきだと思います。
もう1つは国の役割についてです。世界のカリキュラムの動向や国内各県の情報を定期的に地方に提供する役割です。国の教育課程開発センターは各都道府県とつねに連携して、問題点をフィードバックしながら運営していく必要があります。国に基準があるからそれに従っておれば宜しいというのが、今までのやり方でした。この政策が、先生方から教育者としての考える機会を奪ってきたと思います。このようなシステムは民主党であろうが、どの党であろうが改めなければなりません。民主党のマニフェストでは高校無償化を示していますが、いいチャンスです。中等教育に関して今まで文部科学省が行っていた権限の8割方を、都道府県に移すべきです。ただその際に都道府県で中心になるのが行政職員だけでは絶対にダメです。科学性・実証性のあるカリキュラム作りのためには、都道府県のカリキュラムセンターには有能な人材を配置し、各校でも中心となる教諭には1〜2年かけて研修を行うようにすべきでしょう。
−教育委員会の機能はどのような形になるでしょうか?
中島 このカリキュラムに関しては、行政官の集まりである教育委員会には全く期待していません。カリキュラムセンターをエンジンにしなくてはならないと思います。ここにエンジンを置いて、科学的なデータや実証的なデータを分析して、そのデータに基づいて、教育委員会でその政策を作るという役割分担を明確にすべきだと思っています。遅々として進まない地方分権を教育行政の分野からからスタートすることが大切で、各都道府県で違ったパターンが出てきます。品川区や横浜市は小中学校の一貫教育を試みようとしていますが、私は反対です。小学校の属性ともいうべき画一性に中学校が引っ張られてしまうからです。むしろ中学校を多様化し、逞しくすべきだと思います。都道府県は広域でみる立場にありますから、中等教育全体を主管したらよいと思います。またこうしたシステムを改革するチームを国家戦略局のなかに設置すべきだと考えています。
−小沢鋭仁環境相を帯同し鳩山総理が国連総会で2020年までに「CO2排出量25%を削減」を宣言しました。これはシナリオがあったのでしょうか?環境省からの積み上げの政策的な反映だったのでしょうか。それとも鳩山総理個人のブレーンの協力下でのものなのでしょうか?また中島さんは、これまで政治家として、日本新党解党に伴い院内会派「グループ青雲」を形成し、その後、「新党さきがけ」と合流し、民主党に移行してから後も、いわゆる鳩山グループに属してこられました。政治家としての鳩山由紀夫氏と身近で接してこられましたが、ご覧になってどのように思われますか。
中島 鳩山総理がどういう根拠をもって、どういうデータの積み上げがあって、あの「CO225%削減」宣言に至ったのかはわかりません。政治的なアドバルーンとしては大きな効果があったでしょう。しかし、下支えの論理には弱いところがあると思っています。でもそれは後出しになっているとしても、詰めていったほうがよいと思います。鳩山氏は民主党の立上げのときから、一貫して国家的なシンクタンクの必要性ということを主唱していましたが、まさにこういう課題解決にシンクタンクを活用すべきだと思います。鳩山政権の大きな課題は、やはり経済界との関係ではないでしょうか。経団連会長に住友化学の米倉弘昌氏が着任しますが、経済界がリーダーシップをとらないといけないと思います。経済界がまとめられないようでは、環境問題は動かないと思います。政府として、日本経済の礎でもある中小企業への経済的支援を配慮しながら、リーディング企業である日本経団連が、政府との共通の政策課題として協調することが不可欠ではないでしょうか。環境税というものを有効に活用して、日本の次の目標につなげていくコンセンサスを形成していって欲しいと思っています。
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